【本記事の閲覧にあたって】 本記事は、風力発電そのものの是非を論じるものではありません。風力発電が脱炭素に寄与することと、個々の計画が適切な場所に立地していることは別の問題です。全国全体で便益が見込まれても、鳥類への負担は特定の地域・渡り経路・営巣地に集中することがあります。したがって問うべきなのは「風力発電に賛成か反対か」だけではなく、「この場所で、必要な調査が行われ、回避すべき立地が避けられ、稼働後に問題が起きた場合の停止・改善措置が準備されているか」です。中立とは、賛否を薄めることではなく、判断基準を明確にすることです。 本記事の情報は2026年7月時点のものです。環境影響評価法施行令の風力対象閾値(第一種50MW以上/第二種37.5MW以上〜50MW未満)は令和3年政令第283号(2021年10月31日施行・経過措置あり)による現行値です。個別の事業計画に対する対応は、必ず自治体窓口・弁護士・専門家等にご相談ください。
この記事で持ち帰ってほしい5点
- バードストライクの把握数は「最低数」であり、実際の衝突死数を直接示さない——判断は把握数の大小だけで下せない
- 繁殖速度の遅い猛禽類は、成鳥死亡の増加を短期間で補うことが難しい——同じ1羽でも種によって意味が違う
- 全国レベルの脱炭素便益と、この場所に建ててよいかは別の問い——両者を混同すると個別地域の負担が見えなくなる
- 国の法アセス対象外(37.5MW未満)でも、都道府県条例・市町村条例・地域協定によって立地・調査・事後監視・撤去責任を確認する余地がある——制度は法アセスだけではない
- 工事開始後は配置変更などの選択肢が大きく狭まるため、計画を変更できる段階で情報を集め、具体的な調査項目と回避措置を意見書等で求める——動けるタイミングと手段を知っておく
本記事は、この5点を実際に使える形にするための情報を整理します。財団の「命の水と森を守る条例ひな型」(事前ベースライン測定・熟議期間・手続確認者・独立再検証)、および「鏡野風力発電を考える会インタビュー」で語られた経験に、科学と制度の視点から光を当てます。
1. バードストライクの実態——把握数は「最低数」
バードストライクとは、鳥類が飛行中に人工構造物と衝突する現象です。風車では、回転するブレードやタワー・ナセルへの衝突が主な形態となります。
環境省が2016年に取りまとめた海ワシ類に関する手引きでは、2004年以降、2016年3月時点までに把握された事例として、風力発電施設周辺で発見された海ワシ類の死骸等は43個体(43事例)でした(一覧に掲載された最新の発見日は2015年3月)。うち1個体がオオワシで、残りはオジロワシでした1。報告のあった風車は25基で、そのうち23基が北海道に位置していました。また、43事例中35事例は、海ワシ類の渡来が始まる10月から渡去が終わる翌年4月までに確認されています1。
その後、環境省の2022年改定版では、2003年度から2021年度までの19年間に、海ワシ類のバードストライクが73件確認されたと整理されています2。集計期間が異なるため43件と単純比較はできませんが、2016年手引き以後も確認事例が蓄積していることが分かります。
ここで大切なのは、この数字を「実際の衝突死数」と読まないことです。報告書自身が、実際に衝突していても死骸が発見されない場合があるため、把握された件数は最低数であることに留意を求めています1。死骸は調査前に捕食者などによって持ち去られることがあり、探索範囲、調査間隔、植生、調査員による発見率も結果を左右します。そのため、実際の死亡数を推定するには、死骸残存率や探索者発見率などを用いた補正が必要です3。
つまり、「衝突は少ないから問題ない」と読むには、その調査が採用した探索設計と補正手法まで確認する必要がある。事業者が提示する事後調査計画にこの補正設計が組み込まれているかどうかは、後述する住民・自治体のチェック項目の一つになります。
2. 猛禽類は「同じ1羽の重み」が違う
イヌワシとクマタカは、環境省第5次レッドリスト(2026年3月公表)で、いずれも**絶滅危惧ⅠB類(EN)**と評価されています4。
環境省は、イヌワシについて令和4年時点の推定個体数を約500羽、同年の**全国平均繁殖成功率を17.4%**としています5。これらは日本イヌワシ研究会が公表した調査データに基づく推定値です。行動圏は20〜250km²、平均約60km²とされます5。
大型猛禽類は一般に長寿命で繁殖率が低く、個体数が少なく、成熟まで時間がかかり、毎年すべてのつがいが繁殖に成功するわけではない生活史を持ちます。このため、成鳥死亡の増加を短期間で補うことが難しい——ここが本種の脆さです。同じ1羽の死亡でも、個体群への意味は繁殖率の高い種と大きく異なります。海外のイヌワシ個体群を対象としたモデル研究では、成鳥生存率の変化が個体群動態に強く効くことが示されています6。ただしこれは米国個体群を対象とした研究であり、日本亜種・日本個体群そのものの推計ではないため、生活史上の一般的感受性を理解する補助資料として位置付けます。
つまり、猛禽類の場合、衝突死1件が持つ意味は、他種と比べて相対的に大きくなり得る。この非対称性は、後述する立地選定(§4)の重み付けに直結します。
3. 科学は何を言っているか——「全国便益」と「個別立地の適否」を分けて読む
風車の鳥類への影響を扱った近年の査読研究は、単一の結論に収束していません。本記事はどちらか一方に軍配を上げるのではなく、両者を並置し、**「両者は同じ問いに答えていない」**ことを示します。
3-1. 風車の鳥類生物多様性への負の影響——Meng et al. (2025)
Meng et al. (2025) は、中国の市民科学データを郡単位で計量経済分析し、風車が1標準偏差増えると鳥類の個体数が9.75%減少、種の豊富さが12.2%減少すると推定しました7。負の影響は特に渡り鳥、および森林・都市・農地の鳥で有意に観察され、機構としては生息地の喪失が示唆されています。
同時に著者は、風力発電による炭素削減効果を含めた環境全体への純影響はプラスと結論しています7。ただし、この結論は中国の郡単位のデータに基づく社会全体の評価であり、個別の営巣地や渡り経路における立地の妥当性を保証するものではありません。
つまり Meng の結論を正しく読むと、「広域集計では風力は環境全体でプラス。しかし負担は特定の地域・種に集中する構造がある」ということです。この広域評価を「この立地でも問題ない」と読み替えるのは論旨の飛躍にあたります。
3-2. 稼働中の風力発電施設におけるクマタカの生息継続——一瀬・青木 (2025)
一瀬弘道・青木俊汰郎「稼働中の風力発電施設におけるクマタカの生息状況」(『応用生態工学』27巻2号、2025)は、既設16基の風車周辺でクマタカのつがい数が建設前2つがい→建設後3つがい→更新前4つがいへ推移したことを記録しています8。4つがい中、A・Bで繁殖成功が確認され、C・Dは繁殖行動は観察されたものの成功が確認できませんでした。巣から既設風車までの距離は A=553m、C=925m、繁殖テリトリー内の風車基数は A=2基、C=5基でした8。
著者は「クマタカが風力発電機と共存しうる可能性を示唆した」と結論しています8。ただし、この結論を「風車と猛禽類は共存できる」の一般命題に広げるのは著者の意図を超えた解釈です。本研究は単一地域・少数つがいの観察研究であり、生息継続は繁殖成功率の低下や行動変化がないことを意味しません。
さらに、設置前・設置直後・更新前では、調査日数・調査地点数・調査方法が同一ではありません(設置前24日間・設置直後9日間・更新前85日間)。特に更新前の調査努力量が大きいため、確認つがい数の増加を「風車の影響がなかったこと」の因果的証明として扱うことはできません。本研究は、当該地域で稼働後もクマタカの生息・繁殖活動が確認された長期事例として読むのが適切です。
また、本研究の著者所属には環境コンサルタント会社と風力発電事業者が含まれます——研究の価値を否定する事情ではありませんが、両論を評価する際の情報として付記します。
3-3. 二つの研究から読み取れる本当のこと
Meng と一瀬・青木は、同じ問いに反対の答えを出したのではありません。Meng は「中国で風力が普及した結果、鳥類群集はどう変化したか」を、一瀬・青木は「この場所のこのつがいが、この風車のもとで営巣を続けているか」を、それぞれ調べています。対象国・空間スケール・対象種・評価指標・研究デザインが違う以上、両者を対立と読むこと自体が誤りです。
読み取れるのは次の一点です:全国スケールで平均的に見えたときの便益と、この立地・この種にかかる負担は、別の物差しで測る必要がある。だからこそ、この場所での調査項目・立地の適否・事後監視の設計を、計画段階で具体的に確認することが要る——次章はその実用ガイドです。
4. 立地決定「前」に確認すべきこと——住民・自治体のチェックリスト
風車の鳥類への影響を、計画変更が可能な段階で判定するには、事業者が提示するアセス資料・計画書のどこを見ればよいか。ここでは3つの段階に分けて、実用チェック項目を整理します。
4-1. 計画段階——事業者資料でここを確認する
調査期間
- 1季だけでなく、繁殖期・渡り期・越冬期を含んでいるか
- 悪天候時や夜間の鳥の移動を扱っているか
営巣地と飛翔経路(計画段階で回避する)
- 希少猛禽類の巣の有無だけでなく、採餌場所との往来を調べているか
- 尾根・谷・上昇気流など、鳥が利用する地形の評価があるか
- 環境省の2011年立地適正化手引き9および2022年改定の海ワシ類バードストライク防止策手引き2は、それぞれの対象範囲において、営巣地からの距離だけでなく行動圏・渡り経路・集結地・飛翔頻度・地形・事業規模の複数要素を踏まえた評価を示しています。特定の離隔距離だけで安全性は判定できません
- 重要な営巣地・採餌場・高利用域・移動経路を避ける計画になっているか
累積影響
- その事業だけでなく、周辺の既設・計画中風車を合わせて評価しているか
配置の代替案
- 基数削減、尾根からの後退、配置変更を比較しているか
- 「予定地ありき」で代替案検討が形骸化していないか
第三者性
- 調査者・評価者と事業者の関係が開示されているか
- 独立した鳥類専門家の検証があるか
4-2. 稼働段階——事後調査計画・運転制御に何が書かれているか
- 死骸探索の頻度・探索範囲が十分か(海ワシ類を対象とした環境省2022年改定版は最低月3回、場所や状況に応じて追加1回の計4回を目安として示す2。他の鳥種については、生態・立地・飛翔状況などに応じて調査頻度を個別に設計する必要がある)
- 発見率や捕食者による持ち去りを補正する設計か(§1参照)
- 調査結果が公開されるか
- 稼働後の対応として、特定季節・時間帯の一時停止/フェザリング等によるローター回転の抑制/飛来検知に基づく停止/衝突が集中する風車の運転停止/専門家の評価に基づく人為的な餌資源や誘引要因(廃棄魚・動物死骸等)の管理/必要に応じた長期停止が事前に定められているか。「発電量を下げる」ではなく、衝突リスクを下げる運転状態かを見る
- 事前に定めた対応開始基準(トリガー)に達した場合、誰が判断し、どの対策を実施するかが事前に定められているか。トリガー例:希少猛禽類の死骸が確認された場合/特定風車周辺で衝突が反復した場合/営巣地や高利用域が新たに確認された場合/調査値が予測を大きく上回った場合
4-3. 廃止段階——撤去責任は誰にどう残るか
- 撤去費用の見積額、積立方法、積立開始時期、管理主体が明示されているか
- ※ 2026年7月時点では、風力発電をFIT/FIPの廃棄等費用積立制度の対象とする制度整備が2027年4月を目途に進められています10。現段階では、事業計画、許可条件、契約、自治体条例、地域協定等において、撤去費用の確保方法を個別に確認する必要があります
- 事業譲渡時に積立義務も承継されるか/倒産時に誰が資金へアクセスできるか
- 撤去対象は風車本体だけでなく、基礎・送電設備・管理道路の撤去を含むか
- 道路・造成地をどこまで復旧するか
- 事業終了後の原状回復と土地の管理を誰が引き受けるか
これらは事業者資料を読むための入口です。「読んでもよく分からない」段階で、次章以降の制度に接続してください。
5. 鏡野事例が示したもの——計画段階で住民ができたこと
岡山県鏡野町で計画されていた「(仮称)鏡野風力発電事業」は、2025年8月に事業者の撤退方針が報じられ、環境省の環境影響評価情報支援ネットワークにも「事業廃止」として掲載されています11。詳細は住民インタビュー「「反対」ではなく、「適切な開発を」——鏡野風力発電を考える会に聞く」に記録しています。
本事案は総出力最大92,400kW(92.4MW)の第一種事業であり、環境影響評価法に基づく方法書手続が実施された案件です12。それでも住民・専門家から立地選定や調査方法の適否について意見が出されたことは、法アセスの対象であることと、地域の懸念が十分に解消されることは同義ではないことを示しています。
本事案で住民が計画段階で実施した動きとして、次の点が観察できます。
- 請願と情報公開請求:住民組織による議会請願(採択)と、町・事業者の協議経緯に関する開示請求
- 専門家連携:計画地の自然環境を心配する研究者らによる勉強会からのつながり
- NACS-J の意見表明:2025年9月1日付のコメントで、イヌワシ・クマタカ等への影響を理由に、同計画の中止を求めてきた経緯を説明13
- 記録の継続:説明会の録音・文字起こし・意見書の蓄積
これらの活動は、立地や調査方法に関する論点を可視化し、行政・議会・事業者との間に記録を残す役割を果たしました。一方、住民活動が撤退判断にどの程度影響したかを、公開資料だけから確定することはできません。報道では、事業者が町に対し、盛土規制に伴う風車基数の削減によって採算確保が困難になった旨を説明したとされています11。個別の因果は残しつつ、計画段階で住民が制度的に何を実施できたかという観察は、他地域でも参照可能です。
NACS-J はまた、2025年11月に「大型陸上風力発電計画の自然環境影響レポート2025(外部サイトを別タブで開く)」を公表し、全国の大型陸上風力計画の自然環境影響を整理しています14。
6. 制度は法アセスだけではない——県条例・市町村条例・条例ひな型
6-1. 法アセス対象外の意味
まず前提を整理します。日本の環境影響評価法上、風力発電の対象閾値は次のとおりです15。
- 第一種事業:出力50MW以上(法アセスが原則義務)
- 第二種事業:出力37.5MW以上50MW未満(判定を経て対象となりうる)
この閾値は令和3年政令第283号(公布2021年10月4日・施行2021年10月31日・経過措置あり)で、旧値(第一種10MW以上/第二種7.5MW以上10MW未満)から大幅に引き上げられました16。
重要なのは、「37.5MW未満は国の法アセス対象外」は「安全とされる境界」ではないということです。国の規模要件は、環境影響の有無を判定する「安全基準」ではなく、国の全国一律手続を適用する範囲を定めた制度上の境界です。37.5MW未満なら鳥類への影響が小さい、という意味ではありません。
事後調査についても、発電所アセス省令(平成10年通商産業省令第54号)第31条は、予測の不確実性が大きい選定項目について環境保全措置を講ずる場合等において、環境影響の程度が著しいものとなるおそれがあるときは、工事中および供用開始後の環境状況を把握するための事後調査を行う建付けを定めています17。要件を満たす場合に事業者が計画する構造で、全事業一律ではありません。
6-2. だから、都道府県・市町村・地域協定の出番がある
国の法アセスの規模要件から外れる領域、および対象事業でも懸念が残る場合を補完する層として、都道府県条例・市町村条例・地域協定があります。役割は大きく次の二段構えです。
A. 環境影響評価条例(都道府県レベルが中心) 目的は、調査・予測・住民意見・計画修正・事後監視の手続を制度化すること。都道府県によって、国の法アセス対象閾値より低い規模の風力発電事業を条例アセス対象にしている例があります。ただし通常、アセス条例そのものが自動的な拒否権になるわけではなく、影響を明らかにする手続としての性格が中心です。
具体例として岡山県環境影響評価等に関する条例では、風力発電所は出力1,500kW(1.5MW)以上が対象事業とされ、調査・予測・評価、住民意見の提出、知事意見、環境管理計画などの手続を課しています18。岡山県内における主な環境影響評価制度の入口を規模別に整理すると、次のとおりです(表は「主にどの制度が入口になるか」を示すもので、制度の排他的区分ではありません)。
| 出力規模 | 主な入口となる制度 |
|---|---|
| 50MW以上 | 国の法アセス・第一種事業 |
| 37.5MW以上〜50MW未満 | 国の法アセス・第二種事業(判定を経て対象化) |
| 1.5MW以上〜37.5MW未満 | 岡山県条例アセス |
| 1.5MW未満 | 岡山県条例アセスの規模要件外。ただし他法令・市町村条例・地域協定は別途確認 |
「37.5MW未満だから何もない」ではなく、都道府県条例レベルで手続の網がかかることがあります。
B. 立地規制・再エネ適正化条例(市町村レベルに例が多い) 禁止区域・許可制・不許可基準・許可条件・維持管理・定期報告・立入検査・措置命令・許可取消し・撤去費用の確保、まで組み込める設計です。ここは重大な影響を回避できない計画を認めない強い規制になり得ます。
具体例として福島市の「福島市再生可能エネルギー発電施設の適切な設置及び管理に関する条例」(2025年4月1日施行)は、太陽光発電施設は出力10kW以上、風力発電施設は原則として出力要件なしで対象(建築物に設置されるもの等は適用除外)とし、禁止区域では設置を認めず、それ以外の区域でも市長の許可を必要としています。事業者には市との事前協議、近隣住民等への説明、意見への誠実な回答、維持管理や撤去費用の確保などが求められ、近隣住民等は説明会終了後30日以内に事業者へ意見書を提出できます19。国の法アセスと市町村の立地許可条例は制度目的が異なるため単純比較はできませんが、福島市条例は、国の法アセス規模要件を大きく下回る風力発電施設も対象にできる制度例です。
高崎市の「高崎市自然環境、景観等と再生可能エネルギー発電設備設置事業との調和に関する条例」に基づく特別保全地区内では、風力を含む再生可能エネルギー発電設備の設置事業が規模を問わず許可対象となり得ます20。市全域ではなく特別保全地区内であることに留意が必要です。
財団の「命の水と森を守る条例ひな型」は、まさに **B型(立地規制条例)**の設計です。事前ベースライン測定・熟議期間・手続確認者(独立の専門家)・条件付き採用事項の履行確保・稼働起因影響の調査と独立再検証・廃止と撤去積立、までを条例レベルで統合しています。詳しくは「一般向け解説——まず知ってほしいこと」もご覧ください。
※ 都道府県条例・市町村条例の状況は地域差が大きく、お住まいの地域で使える制度は自治体窓口で個別確認をおすすめします。
6-3. 制約と限界——「条例を作れば自由に止められる」わけではない
条例による権利制限は、法令と矛盾しないこと、目的が明確であること、規制対象・禁止区域・許可基準が客観的であること、規制が必要かつ比例的であること、事業者に説明・意見提出等の手続保障があること、不許可や取消しの判断基準が恣意的でないこと、が求められます。
したがって「住民が反対した場合は許可しない」というような主観基準の条文は危うい設計です。一方で「希少猛禽類の営巣地・主要な飛翔経路・集団渡来地など、重大な影響を回避できない区域では設置を認めない」といった科学的根拠と地理的基準を持つ規制の方向で、財団の条例ひな型では、単なる賛否ではなく、科学的根拠、区域指定、客観的な許可基準、手続保障を組み合わせる設計を採用しています。ただし、個別条例の適法性や規制可能な範囲は、上位法との関係や地域事情を踏まえた法務確認が必要です。
7. 結論——動けるタイミングと手段を知っておく
風力発電の必要性を認めることと、調査不足の計画を受け入れることは同じではありません。全国レベルの脱炭素便益は、この立地・この種にかかる負担を自動的に打ち消しません。両者は別の物差しで測る必要があります。
本記事の結論は次の三点です。
- 国の法アセス対象外(37.5MW未満)であっても、都道府県条例・市町村条例・地域協定によって、立地・調査・事後監視・撤去責任を確認する余地がある——制度は法アセスだけではない
- 工事開始後は、配置変更や立地回避といった選択肢が大きく狭まる。計画を変更できる段階で情報を集め、具体的な調査項目と回避措置を求める——動けるタイミングは「計画段階」に多く残されている
- 住民・自治体・専門家が計画段階から関与できる制度設計を、地域の共通ルールとして整えることが有効——財団の条例ひな型はそのための一つの選択肢
本財団は、再生可能エネルギーを脱炭素の重要な柱の一つと位置付けています。同時に、風力発電が地域の自然——特に絶滅のおそれのある猛禽類——に与える影響については、科学的知見の異なるスケールを並置し、立地・規模・地域特性に応じた慎重な判断を積み重ねる姿勢が必要だと考えます。
各地の事例の制度的な整理は「再生可能エネルギー開発計画と地域対応の事例整理」を、条例レベルの制度案は「命の水と森を守る条例ひな型」を、太陽光パネルの出口論点については「太陽光パネルは、役目を終えた後どこへ行くのか」を、個別の相談は「環境相談」をご覧ください。
出典
注・出典
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環境省 自然環境局 野生生物課『海ワシ類の風力発電施設バードストライク防止策の検討・実施手引き』2016年(平成28年)6月。https://www.env.go.jp/content/900494459.pdf(外部サイトを別タブで開く) (2004年以降2016年3月までに、海ワシ類の死亡等43個体・報告風車25基・北海道23基・北海道23基は当時の稼働中風車289基の8.0%・10月から翌年4月の発見が43件中35件は資料表示3頁・PDF6頁。個別事例一覧は資料表示7〜8頁・PDF10〜11頁。同資料は、未発見個体があるため把握件数が最低数であることを注記している) ↩ ↩(2か所目) ↩(3か所目)
-
環境省 自然環境局 野生生物課『海ワシ類の風力発電施設バードストライク防止策の検討・実施手引き(改定版)』2022年8月。プレスリリース https://www.env.go.jp/press/press_00362.html(外部サイトを別タブで開く) /本体 https://www.env.go.jp/content/000062919.pdf(外部サイトを別タブで開く) 。海ワシ類を主対象とし、営巣中心域・高利用域、地形・餌場を考慮した立地検討、死骸調査、繁殖状況・行動圏調査、順応的管理等を示す。死骸調査は最低月3回、場所や状況に応じて追加1回の計4回を目安とする。同改定版では2003年度〜2021年度の19年間で海ワシ類のバードストライク73件が整理されている ↩ ↩(2か所目) ↩(3か所目)
-
死骸探索の補正手法の技術的解説として、日本野鳥の会「風力発電のバードストライク調査ガイドラインおよび自主的取組推進のための調査マニュアル」等を参照 https://mobile.wbsj.org/activity/conservation/publications/guidance_material/shiryou26/(外部サイトを別タブで開く) ↩
-
環境省編『第5次レッドデータブック:絶滅のおそれのある日本の野生生物 鳥類』2026年3月。https://www.env.go.jp/nature/kisho/5th-rl-2026-book/03-5threddatabook-birds.pdf(外部サイトを別タブで開く) (クマタカ・イヌワシはいずれも絶滅危惧ⅠB類〔EN〕) ↩
-
環境省「イヌワシ」(保護増殖ページ) https://www.env.go.jp/nature/kisho/hogozoushoku/inuwashi.html(外部サイトを別タブで開く) (令和4年時点の推定個体数約500羽、同年の全国平均繁殖成功率17.4%、行動圏20〜250km²・平均約60km²。個体数・繁殖率の元データは日本イヌワシ研究会) ↩ ↩(2か所目)
-
Jason D. Tack, Barry R. Noon, Zachary H. Bowen, Lauren Strybos, and Bradley C. Fedy, "No Substitute for Survival: Perturbation Analyses Using a Golden Eagle Population Model Reveal Limits to Managing for Take," Journal of Raptor Research, 51(3), 2017. https://doi.org/10.3356/JRR-16-32.1(外部サイトを別タブで開く) (西部北米のイヌワシ個体群を想定した段階構造モデル。繁殖成鳥の生存率が個体群成長率に対して最も高い感度・弾力性を示した。日本亜種・日本個体群の推計ではないため、生活史上の一般的感受性を説明する補助資料として使用) ↩
-
Lina Meng, Pengfei Liu, Yinggang Zhou, Yingdan Mei, "Blaming the wind? The impact of wind turbine on bird biodiversity," Journal of Development Economics, Vol. 172 (2025). https://doi.org/10.1016/j.jdeveco.2024.103402(外部サイトを別タブで開く) (風車1SD増→郡単位で鳥個体数 −9.75%、種の豊富さ −12.2%。負の影響は渡り鳥・森林/都市/農地の鳥で有意。機構は生息地喪失。著者は炭素削減効果を含めた純影響はプラスと結論。中国郡単位・市民科学データ・計量経済分析) ↩ ↩(2か所目)
-
一瀬弘道・青木俊汰郎「稼働中の風力発電施設におけるクマタカの生息状況」『応用生態工学』27巻2号(2025). https://doi.org/10.3825/ece.23-00017(外部サイトを別タブで開く) (既設16基周辺で、つがい数 建設前2→建設後3→更新前4に推移。4つがい中A・Bで繁殖成功、C・Dは繁殖行動観察も成功未確認。巣から既設風車まで A=553m・C=925m、繁殖テリトリー内 A=2基・C=5基。著者結論:「クマタカが風力発電機と共存しうる可能性を示唆した」の限定表現。単一地域・少数つがいの観察研究で一般化不可。著者所属に環境コンサルタント会社・風力発電事業者を含む) ↩ ↩(2か所目) ↩(3か所目)
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環境省 自然環境局 野生生物課『鳥類等に関する風力発電施設立地適正化のための手引き』(2011年1月、2015年9月修正版)。公式ページ https://www.env.go.jp/nature/yasei/sg_windplant/guide/post_91.html(外部サイトを別タブで開く) (当初公表版PDF https://www.env.go.jp/press/files/jp/16732.pdf(外部サイトを別タブで開く) )。同手引きは2011年公表・2015年修正で、法令上明文化された事項を除き義務を定めるものではない。本記事では、現行の法アセス制度ではなく、鳥類影響を複数要素から評価する技術的な考え方の出典として使用 ↩
-
資源エネルギー庁 総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会 再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会 資料(風力発電の廃棄等費用積立制度の対象化を含む再エネ制度整備に関する検討) https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/076_02_00.pdf(外部サイトを別タブで開く) (2026年7月時点、風力発電をFIT/FIPの廃棄等費用積立制度の対象とする制度整備が2027年4月を目途に進められている) ↩
-
環境省 環境影響評価情報支援ネットワーク「当該鏡野風力発電事業・事業廃止」 https://assess.env.go.jp/2_jirei/2-2_search/result_haishi.html?start=1&maxrows=20&keyword=&yy1=&yy2=&maxcount=4161&page=search_result&jid=0000_2021_040-0-0&reassess=0(外部サイトを別タブで開く) /KSB瀬戸内海放送「岡山・鏡野町の大規模風力発電計画 東京の企業が撤退決める『採算が取れないと判断』」(盛土規制区域の指定に伴って風車基数を大幅に削減する必要が生じ、採算確保が困難になったとの事業者説明を報道) ↩ ↩(2か所目)
-
環境省 環境影響評価情報支援ネットワーク・当該鏡野風力発電事業(方法書手続の事例詳細) https://assess.env.go.jp/2_jirei/2-2_search/result_houhou.html?jid=0000_2021_040-0-0&reassess=0(外部サイトを別タブで開く) (総出力最大92,400kW/単機約4,200kW/最大25基/第一種事業) ↩
-
日本自然保護協会「当該鏡野風力発電事業の計画中止報道についてのコメント」(2025年9月1日付) https://www.nacsj.or.jp/report/55228/(外部サイトを別タブで開く) ↩
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日本自然保護協会『大型陸上風力発電計画の自然環境影響レポート2025』(2025年11月6日公表) 一覧ページ https://www.nacsj.or.jp/media/2025/11/57883/(外部サイトを別タブで開く) /本体PDF https://www.nacsj.or.jp/wp/wp-content/uploads/2025/11/WindPower_Analysis_Report2025.pdf(外部サイトを別タブで開く) (分析対象・方法:資料表示8〜9頁/猛禽類等の希少鳥類への影響:10〜12頁/今後の課題・適切な立地:36〜37頁/条例アセス対象事業数:5頁。政府統計ではなくNGOによる独自解析・政策評価) ↩
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環境影響評価法施行令(政令番号
409CO0000000346)別表第一「五」の項(電気工作物)。e-Gov 法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/409CO0000000346/(外部サイトを別タブで開く) (第一種:出力五万キロワット以上/第二種:三万七千五百キロワット以上五万キロワット未満の風力発電所設置工事事業) ↩ -
環境省「環境影響評価法施行令の一部を改正する政令(令和3年政令第283号)の概要」 https://www.env.go.jp/content/900517857.pdf(外部サイトを別タブで開く) (公布2021年10月4日、施行2021年10月31日、経過措置あり)。関連ページ:環境省 環境影響評価情報支援ネットワーク https://assess.env.go.jp/1_seido/1-3_horei/8_seitei/index.html(外部サイトを別タブで開く) /経過措置省令の周知(経済産業省) https://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/oshirase/2021/10/20211029.html(外部サイトを別タブで開く) ↩
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「発電所の設置又は変更の工事の事業に係る計画段階配慮事項の選定並びに当該計画段階配慮事項に係る調査、予測及び評価の手法に関する指針、環境影響評価の項目並びに当該項目に係る調査、予測及び評価を合理的に行うための手法を選定するための指針並びに環境の保全のための措置に関する指針等を定める省令」(平成10年通商産業省令第54号) https://laws.e-gov.go.jp/law/410M50000400054/(外部サイトを別タブで開く) 第31条は、予測の不確実性が大きい選定項目について環境保全措置を講ずる場合等において、当該措置の実施に伴う環境影響の程度が著しいものとなるおそれがあるときは、工事中および供用開始後の環境状況を把握するための事後調査を行う建付けを定めている ↩
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岡山県「環境影響評価(環境アセスメント)制度の運用」ページ https://www.pref.okayama.jp/page/detail-4636.html(外部サイトを別タブで開く) および県条例施行規則の対象事業(風力発電所は出力1,500kW以上)https://www.pref.okayama.jp/uploaded/life/1033841_10002774_misc.pdf(外部サイトを別タブで開く) (岡山県環境影響評価等に関する条例。手続としては調査・予測・評価、住民意見の提出、知事意見、環境管理計画を課す。許可制ではなく、影響を明らかにするための手続制度) ↩
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福島市「福島市再生可能エネルギー発電施設の適切な設置及び管理に関する条例」(2025年4月1日施行) https://www.city.fukushima.fukushima.jp/soshiki/8/1034/2/12536.html(外部サイトを別タブで開く) (太陽光発電施設は出力10kW以上、風力発電施設は原則として出力要件なしで対象、建築物に設置されるもの等は適用除外。禁止区域では設置不可、それ以外の区域でも市長の許可を必要とし、事業者に事前協議・近隣住民等への説明・意見への誠実な回答・維持管理や撤去費用の確保を求める。近隣住民等は説明会終了後30日以内に事業者へ意見書を提出可能)。関連背景として同市「ノーモア メガソーラー宣言」2023年8月31日 https://www.city.fukushima.fukushima.jp/soshiki/8/1034/2/4/5524.html(外部サイトを別タブで開く) ↩
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高崎市「高崎市自然環境、景観等と再生可能エネルギー発電設備設置事業との調和に関する条例」および特別保全地区制度 https://www.city.takasaki.gunma.jp/reiki/reiki_honbun/e203RG00001566.html(外部サイトを別タブで開く) (特別保全地区内では風力を含む再生可能エネルギー発電設備の設置事業が規模を問わず許可対象となり得る。市全域ではなく特別保全地区内での適用) ↩